気分は内的や外的な要因によって常に翻弄される不安定なものであるにもかかわらず、人間の考えや行動は、この気分によって常に大きな影響を受けています。
その時の気分によって、積極的になったり、消極的になったりすることを、日常的に実感することは多いのではないでしょうか。
また、否定的な気分(不安、緊張、抑うつなど)を避けるために必要な行動を避けたり、肯定的な気分(安心、平穏、爽快、快楽など)を得るために、意味のない行動や、時に不利益となる行動さえしてしまうことがあります。
このように気分にとらわれた状態を気分本位と言います。

自己の目的を実現しようとすれば、その願望と表裏一体をなす失敗への恐怖などの不快感をともなう気分が現れます。
このとき気分本位になると不快な気分に執着してしまい、まず不安や緊張などの不快感をなくすことが目的実現への近道だと考えてしまいます。
気分さえ楽になれば、目的はたやすく実現できるという勘違いしてしまうのです。
しかし実際は、一時的にただ楽になりたいという行動が中心となるために、決して長期的な目的である自己実現にはつながりません。
かえって失敗のイメージなど誤ったイメージが強くなってしまいます。自己実現を図ろうとすれば、その目的の大きさに従って不安や緊張が大きくなるのが自然であり、避けることができないからです。

気分本位となって、不安や緊張などを心の中でやりくりしようとすると、最悪な事態を想定して過度の恐怖や悲観的な考えを強めたり、反対に万全の状況をもとめて完璧主義、理想本位をもたらしたりします。
これらは誤ったイメージに基づいて現実を歪曲しようとするものであり、かえって否定的視点を強めて失敗への不安を増幅させます。
さらにこの不安を弱めようと様々な努力すればするほど不安への意識が強まりとらわれてしまいます。その結果、目的が実現できないばかりか不快な気分を催す対象を避けるようにもなり自信を失くしてしまいます。

これほど人間の考えや行動に強い影響をおよぼす気分ですが、この気分こそ簡単に周囲の影響を受けやすいため注意が必要です。
周囲からの情報や環境によって、いとも簡単に気分は変わってしまい、その影響で考えや行動も変わってしまうのです。
情報、天候、体調などによって気分が変わることは日常茶飯事のことです。
特に噂をはじめとした情報や周囲の状況などの文脈は、その人や出来事に注意を向けた時の気分を変化させて印象やイメージに無意識に影響を与えます。そして先入観や偏見を生みだし、正しい判断を困難にします。
それらが意図的に行われる場合もあり、その方法のひとつが「印象操作」です。相手を納得させる際に事実や理屈で説得するのではなく、相手が納得したくなるような気分になるように情報や状況を作り出すのです。
このような人への操作は、行動と組み合わせることでさらに強化されます。
例えば、ある感染症に対する恐怖を際立たせるように情報を絞り、その病気への印象操作を行います。
そのうえでその恐怖を避ける手段として、手洗い、マスク、対人接触制限、外出制限などの回避行動を促します。
この行動によって安心感が体験できると、その反面として恐怖をさらに現実的なものとして感じられるようになります。
そしてこの現実感のある恐怖によって回避行動が強化されるという循環ができあがり、ある感染症に条件づけられた「行動変容」が生まれます。
これによって感染症を恐れて予防するための行動が違和感なくできるようになるのです。
そしてさらに恐怖にとらわれて安心感を求めるようになると、感染への恐怖は信念となり、何よりも感染予防を優先したり、他の似たような病気や関連する状況などに対しても過敏に反応して回避あるいは排除行動をとるようになってしまいます。
実はこれらの現象は感染症に限らず、差別や偏見が醸成されるメカニズムとも共通しています。このように気分への「とらわれ(Toraware)」である気分本位になると、周囲の情報や環境にも翻弄されやすくなり、個人の心の自由さえも奪われる危険性があるため注意が必要なのです。

本来、不安はより良い自分になりたいからこそ現れるものであり、「不安は向上心の証」でもあるのです。
目的を実現させるためには、「不安や緊張があっても、やりたいこと、やるべきことが出来ればよい」という心構えで、不安などの不快な気分はそのままにして、自己実現への願望に素直に従い目的本位に行動することが必要です。
現状を正しく認識して思い通りにならないことも素直に受け入れると、正しいイメージに基づく肯定的な視点が生まれて、目的を実現するために今大事なことが見えてきます。
大事な目的を意識の中でとらえ続けることができれば迷うことなく自由に行動でき目的が実現できるのです。
目的を意識の中でとらえ続けることができれば、あたかも戦いの最中に痛みを感じないように、不快な気分はありながらも意識から押し出されて感じることがなくなります。
これらの実体験によって正しいイメージが形成され、内的や外的な要因によって生じる気分やイメージに流されることがなくなり心が自由になるのです。自己実現に向かって邁進できている時こそが、本来の安心した状態と言えるのです。

このように気分本位か目的本位かによって、目的に向かってやり抜くことができるかどうかが決まるのです。この克服体験こそが「素直で自由な心」になるための方法であり、不安障害やストレス障害の改善において最も重要なものなのです。